初めてクレームを受けた新人は、たいてい説明から入ります。工事の騒音は許可された時間内のものです、作業はきちんと行っていて書類が抜けていただけです、当店の加工場でそんなはずはありません。間違ったことを言っているわけではないかもしれません。けれど、クレームを出した人が待っているのは説明ではなく、何が変わるのかです。
First Runの半導体ファブ、建設現場、生協、IT企業のマップには、顧客、近隣の住民、組合員、監査担当者が不満を申し出るクエストがいくつもあります。この記事では、そうしたクエストから、クレーム対応の順番と、その場は切り抜けられても後でもっと大きく返ってくる回答を整理します。
クレームを受けた直後の4つの回答
クエストに出てくるクレーム対応の選択肢は、おおむね4つの形に分かれます。
- 説明して理解を求める:自分たちに問題がないという根拠を示す。
- 見た目を整える:記録を埋めたり、補償でクレームを取り下げてもらったりする。
- 大きく約束して先送りする:次の四半期に、後で、しっかりやりますと言う。
- 事実を確かめ、目に見える形で変え、結果を知らせる。
優秀は最後の一つだけです。残りの3つがなぜそうならないのかは、クエストごとに少しずつ違う理由で見えてきます。
説明は措置の代わりにならない
建設現場の関係者クエスト「騒音・粉じんの苦情」です。隣の団地の住民が、早朝のコンクリートはつりの騒音と粉じんについて区役所に苦情を出し、区役所が対応計画を求めてきました。
- 許可された作業時間内で作業していると説明し、竣工まで理解してほしいという文書を住民に送る:不十分
- 苦情を出した住民を訪ね、補償金を提示して苦情の取り下げを頼む:不十分
- 平日朝の苦情を減らすため、はつり作業をすべて土日に移し、横断幕で知らせる:リスクあり
- 測定記録と住民の声を確かめ、はつりの時間を変えて粉じん対策を強化し、連絡担当者を決めて結果を知らせる:優秀
1つ目の回答は事実かもしれませんが、措置がありません。フィードバックの言葉どおり、住民が求めているのは説明ではなく変化です。2つ目は原因がそのままなので、ほかの住民の苦情は続き、お金で黙らせようとしたという印象だけが残ります。3つ目は措置を取ってはいますが、住民と相談していません。週末は、むしろ在宅の住民が多くなります。
優秀には順番があります。事実確認、散水や防じんネットのような目に見える措置、連絡窓口、結果の共有です。結果を区役所と監理にも共有すれば、関係者全員が同じ説明をできます。
記録は後からつくれない
半導体ファブの顧客監査のクエストでは、顧客の監査担当者が2つのことを指摘します。重要工程の作業者2名の教育認定が期限切れになっていること、そしてSPCチャートの一つに管理外れ(OOC)があったのに、OCAPの処置記録がないことです。
- 作業はきちんと行われていて書類が抜けているだけなので、製品品質に影響はないと説明する:不十分
- 締めの会議までにチームに抜けた記録を埋めさせ、監査報告をきれいに保つ:不十分
- 指摘を受け入れ、次の四半期にラインの全作業者を再教育すると約束する:リスクあり
- 指摘を認めてすぐ封じ込め、ほかに同じ抜けがないか点検し、原因と対策を日程付きで回答する:優秀
顧客にとって記録は、その作業が実際に行われた唯一の証拠です。だから、記録がなければ品質も証明できないという1つ目の回答へのフィードバックは、クレーム対応全般に通じます。2つ目の回答はその場をいちばんきれいに切り抜けますが、記録の改ざんであり、発覚した瞬間、今回の指摘とは比べものにならない信頼の損失につながります。
3つ目は、新人がよく選ぶ形です。認めて、大きく約束する。けれど封じ込めなしに次の四半期まで待てば、その間も同じリスクが続きますし、全員の再教育という対策は原因と合っていません。優秀で注目したいのは、同じ抜けを自ら探すという点です。顧客の信頼をいちばん早く取り戻すのは、指摘された一件を直すことより、指摘されていないところまで先に点検する姿勢です。
証拠は捨てず、日付を約束する
生協の店舗に、組合員さんがひき肉から出てきたプラスチック片を持って来られます。子どもが食べるところだったと、とてもお怒りです。このクエストは生協の新人研修シナリオで詳しく扱いましたが、クレーム対応で覚えておきたい点は2つです。早く収めようと返金して異物をその場で捨てれば、原因を突き止める唯一の手がかりが消えます。そして「後ほどご連絡します」と「何日までに結果をお知らせします」は、別の約束です。日付があってこそ、相手は待つことができます。
公開の批判には公開で答える
生協の組合員活動のクエストでは、食品添加物の学習会のあと、組合員の声カードに「一方的な話ばかりだった。結局、PB商品の宣伝じゃないの?」という一文が届きます。企画委員の何人かは、ただの苦情だから流しましょうと言います。
- 掲示板からそのカードを外す:不十分
- 資料を集め、添加物の心配は誤解だったと一つひとつ反論する返事を機関紙に載せる:リスクあり
- 連絡先を書いてくださった方に個別に連絡してお詫びし、次の学習会にご招待する:良好
- ご意見に感謝し、次の学習会をどう変えるか(外部講師、複数の視点の資料、組合員との共同企画)を機関紙で公開して答える:優秀
反論がリスクありになる理由は興味深いものです。指摘の核心は「一方的だった」ということなのに、反論するだけでは、その指摘をもう一度証明することになります。個別のお詫びが良好にとどまる理由もはっきりしています。丁寧な対応ですが、学習会がどう変わるのかは、ほかの組合員さんにはわかりません。同じことを思いながら書かなかった人に届けるには、同じ場で公開して答える必要があります。
同じマップの総代会のクエストも、同じ原理です。多数が賛成する案に少数が強く反対しているとき、議論を打ち切る回答は不十分、発言の機会だけつくって次の議題へ進む回答は良好、反対意見とその回答を総代会の資料に載せるよう提案する回答が優秀です。
IT企業のクレームも同じ順番
IT企業のマップでは、クライアントから苦情が繰り返し寄せられたとき、正式なエスカレーション経路で事実と要望を伝える回答が正解です。リリース直後に大規模な変更要求が来たときも、すぐに反映する回答と断るだけの回答はどちらも正解ではなく、影響を分析したうえで次回リリースの日程を協議する回答が優秀です。外部APIの障害をクライアントに隠す回答は不十分です。業種が違っても、隠したり取り繕ったりせず、事実と次の行動を伝える側が正解です。
クレーム対応の新人研修チェックリスト
- 説明や反論から入る回答が、不正解として説明されているか
- 事実確認、目に見える措置、連絡窓口、結果の共有という順番が正解に入っているか
- 記録を後から埋める回答や、補償でクレームを収める回答が、最も悪い回答になっているか
- 大きく約束して先送りする回答が、なぜ足りないのかを扱っているか
- 指摘された一件のほかに、同じ抜けを自ら点検する回答があるか
- 証拠を保管し、回答する日付を約束する習慣を練習しているか
- 公開の場で出た批判に、公開で答えるクエストがあるか
業種をまたいで使えるシナリオ設計の基準は業種別の新人研修シナリオ設計で、問題の原因を探す順番はなぜなぜ分析の新人研修で続けて読めます。
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