不良や事故が起きると、報告書を書きます。そして多くの報告書が同じ一文で終わります。「根本原因:作業者のミス。対策:当該作業者の再教育」。早く閉じられ、誰も反対しません。そして数か月後、同じ問題が別の作業者のところでまた起きます。
根本原因分析は品質部門だけの仕事ではありません。新人が初めて不良に出会ったとき何から見るかが、その職場の再発防止の水準を決めます。First Runの半導体ファブと建設現場のマップには、問題が見つかった直後の判断を問うクエストがいくつもあります。この記事では、そうしたクエストから根本原因分析の順番を整理します。
「作業者のミス」は原因ではなく症状
半導体ファブの品質・歩留まりエンジニアのクエストです。顧客の市場不良1件がパーティクル欠陥にたどり着き、顧客から8Dレポートを求められました。チームでは「根本原因:作業者のミス、対策:再教育」で早く閉じようという声が出ています。
- 記録上、作業者が拭き取り工程を飛ばしていたので、「作業者のミス、再教育済み」と書いて閉じる:不十分
- 当社の責任が証明されるまで対応を保留し、まず顧客に不良品と全データを求める:不十分
- 封じ込め措置だけ先に送り、根本原因はエンジニアの手が空くまで「調査中」のままにする:リスクあり
- 8Dの手順どおり封じ込め、発生原因と流出原因を証拠で突き止め、恒久対策と効果の検証まで行う:優秀
フィードバックは要点を一文で示しています。「作業者のミス」は多くの場合、原因ではなく症状だということです。そのミスを起こしうる状態にした手順・設備・検査の抜けがそのまま残っていれば、再発します。なぜなぜ分析でも8Dでも、人の名前で問いを止めないことが出発点です。
優秀の回答で注目したい言葉は、発生原因と流出原因です。不良がなぜ起きたのかと、起きた不良がなぜ止められずに顧客まで流れたのかは、別の問いです。両方をふさいで初めて、顧客は同じ問題を二度と見ずに済みます。「調査中」がリスクありである理由もはっきりしています。期限のない「調査中」は、顧客に何も約束していないのと同じです。原因究明の日程と中間報告をあわせて示す必要があります。
ステップ1:封じ込め範囲を決める
原因を探す前にやることは、問題がそれ以上広がらないように止めることです。問われるのは範囲です。
半導体ファブのプロセスエンジニアのクエストで、露光装置1台から、オーバーレイが片側にずれたロットが出ました。昨日、その装置ではキャリブレーションが行われています。
- キャリブレーションは承認済みの作業なので、測定で引っかかった1ロットだけホールドし、残りは流す:不十分
- 原因がわかるまで、ファブ内のすべての露光装置を止める:リスクあり
- 装置は動かしたまま、次のロットからサンプリングを倍にする:リスクあり
- 装置を使用停止にし、最後に正常が確認された時点以降にその装置を通ったロットをMESで洗い出してすべてホールドする:優秀
封じ込め範囲は「引っかかったもの」ではなく「同じ条件を通ったものすべて」です。測定はサンプリングにすぎないので、引っかかった1ロットだけを止めれば、同じ問題を持つ別のロットが次の工程へ進みます。逆に、根拠なくファブ全体を止めれば、問題のない装置やロットまで止まります。証拠が指す範囲からまず止め、広げるかどうかはデータで決めます。
建設現場の水圧試験のクエストも同じ構造です。天井仕上げを前に、7階のスプリンクラー配管の水圧試験の記録がありません。5〜8階の仕上げをすべて延期して4フロアとも再試験する回答は良好です。安全ですが、記録のあるフロアまで止めています。優秀は、7階だけ仕上げを保留し、立会いのもとで再試験して写真とともに記録し、仕上げ班に変更した順序をすぐ伝える回答です。
ステップ2:やり直しのきかない作業を止め、事実を確かめる
建設現場の品質管理のクエストで、8階スラブの供試体の7日圧縮強度が予想より低く出ました。28日の結果はまだで、明日は8階の支保工の解体が予定されています。
- 7日強度は参考値なので、予定どおり支保工を解体する:不十分
- 別の階から新しい供試体を採って再試験し、良いほうの結果を記録として使う:不十分
- 現場全体に8階スラブは不良だと知らせ、撤去の検討を求める:リスクあり
- 品質・工事のチーム長にすぐ報告し、支保工の解体を保留する。養生温度の記録と納品書を確認し、追加試験が必要か監理・構造設計者と協議して、28日の結果とあわせて判断する:優秀
2つの不十分は、根本原因分析の2つの敵を示しています。一つはサインを無視すること、もう一つは証拠をすり替えることです。別のコンクリートから採った供試体の結果は、8階スラブについて何も語りません。リスクありは逆方向の失敗です。7日の結果だけで不良と決めつけるのは早く、気温や養生の条件によって初期強度が低く出ることもあります。優秀は、やり直しのきかない作業だけを止め、原因の候補(養生温度、納品された生コン)を記録で確かめ、判断は専門家とともに行います。
ステップ3:測定を信頼できるかを先に見る
データで原因を探すには、そのデータが信頼できなければなりません。半導体ファブの品質のクエストで、新しい膜厚計測器が設置され、ラインは来週から製品の判定に使いたがっています。Gauge R&Rはまだ行っていません。
- 同じメーカー・同じ機種で、設置報告書にもサインがあるので、すぐに判定に使う:不十分
- 測定のばらつきを吸収できるよう、規格限界を少し広げて使う:不十分
- 既存の計測器と同じウェーハで相関を確認し、評価が終わるまではモニタリング用途に限って使う:良好
- Gauge R&Rと基準計測器とのマッチングを前倒しで行い、合格してから判定用にリリースする:優秀
検証されていない計測器は、良いロットを捨てさせたり、悪いロットを通したりします。そのデータで原因を分析すれば、見当違いの場所を探すことになります。良好が優秀に届かないのは、相関だけでは繰り返し性と再現性がわからないからです。測定システム解析(MSA)で、測定のばらつきが公差に対して十分小さいと確かめて初めて、その計測器の判定を信頼できます。
ステップ4:出どころを分け、記録を残す
建設現場に鉄筋が搬入されましたが、ミルシートの製造番号が荷札と合わず、一部は浮き錆が出ています。鉄筋班は今日すぐ加工を始めたがっています。
- 構造上あまり重要でなさそうな補助筋にだけ使わせる:不十分
- 多少の錆はつきものなので今日から加工させ、正しいミルシートは後でもらう:リスクあり
- 正門で搬入を断ってトラックごと送り返し、記録は残さずに電話で代わりを注文する:リスクあり
- そのロットに「保留」の表示をして別に置き、正しいミルシートを求め、監理と状態を確認して、合格した後にだけ使わせる:優秀
3つ目の選択肢は興味深いものです。使わなかったので品質は守れました。けれど記録がなければ、同じ供給元が同じ問題を繰り返し、工程が遅れた理由も説明できません。根本原因分析は、事故のあとにだけ行うものではありません。不適合を記録に残す習慣が、次の分析の材料になります。
生協のマップにも同じ原理が出てきます。ほうれん草のサンプルから残留農薬が検出されたとき、出荷を止めて回収と告知を進めながら、防除の記録で原因を探る回答が優秀です。ひき肉の異物のクエストでは、異物をその場で捨てる回答がリスクありです。原因を突き止める唯一の手がかりが消えてしまうからです。
根本原因分析の報告書の順番
クエストの優秀を集めると、新人がたどれる順番が見えてきます。
- 封じ込め:最後に正常が確認された時点以降に同じ条件を通った対象を洗い出して止める。
- 事実確認:やり直しのきかない作業を止め、記録と実物を照らし合わせる。
- 測定の確認:判断に使った測定と試験が信頼できるかを見る。
- 原因究明:発生原因と流出原因を分けて探す。人の名前で止めない。
- 対策と検証:恒久対策を入れ、効果があるかを確かめる。
- 共有:中間報告の日程と結果を関係者に知らせる。
根本原因分析の新人研修チェックリスト
- 「作業者のミス、再教育」で閉じる回答が不正解として説明されているか
- 発生原因と流出原因を区別するクエストがあるか
- 封じ込め範囲を狭くしすぎる回答と広げすぎる回答が、どちらも不正解か
- サインを無視する回答と証拠をすり替える回答が、どちらも不十分か
- 測定システムを検証する前の判定を扱っているか
- 不適合品を使わないことと記録を残すことを、両方求めているか
- 「調査中」には日程と中間報告が必要だという点を扱っているか
半導体ファブのクエスト全体は半導体の新人研修シナリオで、事故のあとに人を責めない報告の文化はヒヤリハットを隠さない新人研修で続けて読めます。
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