引き継ぎは、新人が最初に任される仕事の一つです。交代勤務のある現場では最初の週から次のシフトに仕事を渡しますし、事務職でも休暇や担当替えのたびに引継書を書きます。それなのに、引き継ぎを練習したことのある人はあまりいません。たいていは先輩の引継書のひな形を渡され、空欄を埋めながら覚えます。
ひな形は空欄を教えてくれますが、何がいちばん急ぐのかは教えてくれません。First Runの半導体ファブ、建設現場、生協、IT企業のマップには、仕事を次の人に渡す場面が何度も出てきます。この記事では、そうしたクエストから良い引き継ぎの条件をまとめます。
シフトの引き継ぎ:記録と会話をセットで
半導体ファブの生産管理のクエストです。夜勤終了の30分前。午前4時に装置が1台ダウンし、エンジニアの判定待ちのホールドロットが2つ、Q-timeの残りが少ないロットが1つあります。
- 日勤の班長に「装置1台以外は大丈夫です、詳しくはMESにあります」と伝えて退勤する:不十分
- 何ひとつ漏らさないよう、夜間のMESイベントログをまるごと引き継ぎメモに貼り付ける:リスクあり
- 日勤がまっさらな状態で始められるよう、退勤を遅らせて未完了の件を一人で全部片付ける:リスクあり
- 装置の状態、ホールドロットと担当者、Q-timeの残り、未完了の対応を書き出し、日勤の班長と対面で確認する:優秀
3つの不正解は、引き継ぎが失敗する3つのパターンそのものです。1つ目は渡す量が少なすぎます。いちばん急ぐホールドロットとQ-timeのロットが言葉から抜けています。2つ目は多すぎます。情報はそろっていても、次のシフトがログを読み解く間にQ-timeは流れ続けます。3つ目はそもそも渡していません。疲れた状態の判断はミスを招き、次のシフトは何があったのかを知らないまま始めることになります。交代制は、引き継ぐことを前提にしています。
優秀の回答は、2つを同時に行います。記録は漏れなく残し、会話で優先順位を伝えます。
記録と実物がずれる瞬間
引き継ぎの半分は記録です。次の人は、自分が口で伝えなかったことを記録から判断します。記録が実物とずれていれば、引き継ぎは間違った情報を渡すことになります。
半導体ファブのMESのクエストで、膜厚の計測装置がダウンすると、オペレーターは、Q-timeがかかっているロットだからMESで計測ステップを手動でトラックアウトし、測定は後にしようと言います。そうする回答は不十分です。MESでは計測を終えたことになっているのに、実際には測っていないロットになるからです。ロットを先に運び、MESは交代の終わりにまとめて合わせる回答も不十分です。その間、ほかの人は間違った情報で判断します。ホールドを掛けて装置の復旧を待つ回答はリスクありです。飛ばさなかったのは正しいのですが、ホールドは担当者との会話を始める合図であるべきです。優秀は、ステップは飛ばさず、計測・工程の担当者から承認された処置を受け、その理由をMESに残す回答です。
建設現場では、天井仕上げの前日に、7階のスプリンクラー配管の水圧試験の記録がないという場面が出てきます。消防の協力会社は、試験はしたが書類を作っていないだけだと言います。協力会社が言う数値で試験記録を代わりに作成する回答は不十分です。立ち会っていない試験の記録をつくるのは虚偽の記録であり、問題が起きれば作成した人が責任を負います。
明日の作業は今日決める
建設現場の工事担当は、明日の作業指示書を書きます。型枠班と鉄筋班がどちらも明日の午前に13階の同じ区画に入りたいと言い、両方ともタワークレーンが必要で、電気班は打設前に配管を敷かなければなりません。
- クレーンは一番大きな協力会社に先に回し、残りの班には現場で何とか合わせるよう言う:不十分
- 三班を同じ区画に同時に入れ、クレーンは先に頼んだ班から使わせる:リスクあり
- チーム長に状況を報告し、チーム長が決めた順序を職長たちに伝える:良好
- 午後の工程会議で三班の職長と順序・区画・クレーンの時間を決めて作業指示書に書き、朝のTBMで再確認する:優秀
良好のフィードバックは、新人にとって特に役立ちます。報告したのは良いけれど、作業指示書は工事担当が自分で調整して書く書類なので、次は自分の案を持って確認を受けてみよう、という内容です。上に渡すことと、判断を渡すことは違います。優秀の構造は、シフトの引き継ぎと同じです。書類に残し、朝のTBMで会話によって再確認します。
遅れは先に知らせる
引き継ぎのもう一つの顔が、遅れの報告です。計画どおりに進んでいないという事実を、次の人、上司、他のチームに渡す仕事です。4つのマップのどれでも、遅れの報告は同じ方向で評価されます。
半導体ファブの新ライン立ち上げPMは、ガス配管のリーク試験で継手2か所が不合格になり、一週間遅れることになりました。運用への引き渡しまで2週間で、まだ上には報告していません。
- 漏れはごくわずかだったので、再試験を省いて現状のままサインしてほしいと協力会社に頼む:不十分
- まだ挽回の余地があるので、知らせずに夜間・週末作業で埋める:不十分
- 推測ではなく事実を報告できるよう、再試験の結果が出てから報告する:リスクあり
- 今すぐスポンサーと運用チームに、原因・引き渡しへの影響・挽回策・必要な判断を報告する:優秀
新人がいちばん選びやすいのは3つ目です。確かなことだけを報告するのが誠実に見えるからです。けれど確かになるころには、代わりの手を選ぶ時間がなくなっています。不確かな部分は不確かだと書いて、今報告すればいいのです。フィードバックの言葉を借りれば、早く知らせた遅れは計画の一部になり、遅れて知らせた遅れは事故になります。
建設現場の工務担当は、長い梅雨で躯体工程が10日遅れた状況で挽回計画を出します。ここで最も悪い回答の一つが、来月の報告までは工程表の計画日を調整して遅れが見えないようにする案です。IT企業のマップのPMOのクエストも同じことを問います。主要機能が3日遅れることが確実になったとき、まずやるべきは原因・影響・代替案を整理して関係者にすぐ共有することで、合意なしにスコープを独断で削る回答はリスクありです。
生協のセンター運営のクエストでは、忙しい月曜の朝にドライバー二人が病欠しました。空いたコースは今日は休みにし、組合員さんには知らせずに明日届ける回答はリスクありです。冷凍品が一日遅れることより、見守り対象の組合員さんが、来なかった理由さえわからないことのほうが大きな問題です。全コースを同じように遅らせてアプリで一斉に案内する回答は良好、冷凍品の多い班と見守り対象を優先してコースを組み直し、遅れる組合員さんに前もって知らせる回答が優秀です。
引継書に入れるべきこと
クエストの優秀の回答を集めると、引継書と遅れの報告に共通する項目が見えてきます。
- 現在の状態:装置、作業、コースが今どうなっているか
- 未完了の事項と担当者:何が終わっていないか、誰が判断を待っているか
- 時間の制約:Q-time、打設時刻、冷凍品、引き渡し日など、待てないもの
- 次の行動:次の人が最初にやるべきこと
- 不確かなこと:まだわからないことと、いつわかるか
- 必要な判断:遅れの報告なら、受け取った人が何を決める必要があるか
そして、このリストを書類だけで渡さないことです。いちばん急ぐ2〜3項目は、顔を合わせて、あるいは電話で確認します。
引き継ぎシナリオのチェックリスト
- 渡す量が少なすぎる、多すぎる、そもそも渡さないという3つの失敗を、すべて不正解として扱っているか
- 記録と会話を両方行う回答が正解になっているか
- 記録と実物がずれる場面(手動処理、後付けの記録)を扱っているか
- 上に渡すだけの回答と、自分の案を持っていく回答を区別しているか
- 確実になってからの報告を正解として評価していないか
- 遅れを隠す選択肢が、最も悪い回答として説明されているか
- 引継書に時間の制約と次の行動が入っているか
業種をまたいで使えるシナリオ設計の基準は業種別の新人研修シナリオ設計で、危険を見つけたときの報告の順番はヒヤリハットを隠さない新人研修で続けて読めます。
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