多言語オンボーディング:4言語へ広げて決めた基準

同じオンボーディングのシナリオを韓国語・英語・日本語・スペイン語の4言語に広げる中で決めた基準をまとめました。用語集、訳さない言葉、呼びかけ方、長さの違い、数字の表記、そして訳し漏れを見つける自動チェックまで扱います。

First Run チーム
•約8分
この記事の目次

海外拠点の新入社員、外国籍の同僚、いくつもの国に散らばったプロジェクトチーム。オンボーディングの教材を2つ以上の言語で運用しなければならない組織は、思ったより多くあります。そして、たいてい同じ順番で始めます。まず日本語ですべてつくり、それから翻訳に出します。

First Runは韓国語と英語で始まり、日本語を加え、最近スペイン語を4つ目の言語として追加しました。ゲーム画面、クエストに含まれる数千の文、マニュアル、サイトのページ、ブログまでを一度に移す作業でした。この記事では、その過程で実際にぶつかった問題と、次に別の言語を加えるときにも守る基準をまとめます。

翻訳の前に決めること1:用語集

翻訳を何人かで分担すると、同じ言葉が別々の訳になります。ゲームでは「クエスト」がmisiónなのに、マニュアルではtareaになり、ブログではまたdesafíoになる。新入社員は、この3つが同じものなのかどうかで迷います。

そこで、翻訳を始める前に用語集をつくりました。中心になるのは、よく出てきて画面に表示される言葉です。

  • ゲームの基本の言葉:クエスト、復習ボード、バッジ、実績、レベル、ヒント、プレイ結果レポート
  • 評価の4段階:優秀・良好・リスクあり・不十分(英語版ではExcellent・Good・Risky・Poor)
  • 職種名と役職名
  • 現場の用語:業種ごとに、新人が最初の週に耳にする言葉

それでも抜けは出ました。作業の途中で、キャンパスの建物の名前が用語集にないことがわかり、ストーリーを訳した側とUIを訳した側が別の名前を使う寸前でした。マニュアルに引用したボタン名も同じ問題でした。マニュアルに「『この回答で決定』を押してください」と書いてあっても、実際のボタンの訳が違えば、新入社員は画面でそのボタンを見つけられません。用語集は一度つくって終わる文書ではなく、作業中に見つけた言葉を足し続ける文書です。

翻訳の前に決めること2:訳さない言葉

用語集と同じくらい大切なのが、訳さない言葉のリストです。製品名や会社名、人名、そして現場で原語のまま使う略語です。半導体ファブのOCAP、MOC、LOTO、建設現場のTBMは、スペイン語圏の現場でもそのまま使われます。こうした言葉をかみ砕いて訳すと、ゲームの中では親切に見えても、実際の現場に出たときに覚え直すことになります。

その代わり、最初に出てくるところに短い説明を添えました。スペイン語版の建設現場のマップでは、「TBM (charla de seguridad)」のように初出で意味を示しています。日本の生協を舞台にしたマップでは、見守りや班といった日本の仕組みをローマ字のまま残し、短いスペイン語の説明を添えました。制度を別の国の似たものに置き換えてしまうと、物語の舞台がずれてしまうからです。

正解はそのまま、地域に合わせるものだけを変える

シナリオクエストを別の言語に移すとき、最初に決めた原則は、判断の基準を変えないことです。どの言語でプレイしても、優秀は同じ選択肢でなければなりません。そうしてこそ、多言語のチームがプレイ結果レポートを同じ基準で比べられます。

変えるべきなのは、言語や地域によって違う部分です。

  • 数字の表記:英語の「2,000」は、スペイン語圏の一部では小数点として読まれるおそれがあるため、「2000」と書きました。
  • 緊急通報の番号のような制度:日本の生協のクエストに出てくる119番はそのまま残し、スペイン語版には「(emergencias)」を添えて、何の番号かわかるようにしました。
  • 句読点と引用符:スペイン語は疑問符と感嘆符を文の前と後ろの両方に付けます。日本語では「」を使います。
  • 法的な要件:安全教育や個人情報に関する法律は国ごとに違います。クエストは架空の会社を舞台に判断の順番を練習するもので、各国の法定教育の代わりにはならないことを、すべての言語版で同じように明記しました。

呼びかけ方と口調は一度決めて、すべての文書に適用する

日本語に敬語とくだけた話し方があるように、スペイン語にも相手の呼び方が2つあります。親しみのあるtúと、改まったustedです。ゲームとサイト、ブログはtú、プライバシーポリシーと利用規約はustedに決めました。クエストの中で職員が組合員さんや取引先に話すせりふには、場面に合わせてustedを使っています。

大切なのは、どちらを選ぶかより、一度決めた基準をすべての翻訳者が同じように使うことです。一つの画面でtúとustedが混ざれば、同じ会社がつくった教材には読めません。

長さが変わると画面が崩れる

スペイン語は、同じ内容を英語より20〜30%長く書きます。翻訳が終わったあと、いちばん手を入れたのは文章ではなく画面でした。

  • ブログのシェア画像:タイトルが2行を超えると説明文と重なります。スペイン語のタイトル3本が3行にはみ出したため、短く書き直しました。
  • ボタンとカード:狭いスマートフォンの画面で長い単語があふれないよう、スペイン語の本文ではハイフンでの改行を有効にしました。
  • 目次とチップ:文字数の上限は言語ごとに変える必要があります。韓国語と日本語は1文字あたりの情報量が多いので短めの上限を、英語とスペイン語は長めの上限を使います。
  • 評価の名前:スペイン語の形容詞は、性と数によって形が変わります。評価を「Bueno」という固定の名前として扱い、「Buenoと表示された回答」のように書いて、文ごとに形が揺れないようにしました。

対応言語を述べる文は、すべての言語で一緒に直す

新しい言語を加えるときに見落としやすい場所があります。「韓国語・英語・日本語に対応しています」のように、対応言語を述べる文です。スペイン語版にだけスペイン語を書き足して日本語版をそのままにすれば、日本語のサイトは相変わらず3言語だと言い続けます。FAQ、マニュアル、サイトの紹介、検索エンジンやAIが読む要約まで、すべての言語版で一緒に直しました。ゲーム内の言語切り替えの案内も、「韓国語 ↔ 英語」から、4つの言語を順に切り替える文言に変えました。

抜けは人ではなくチェックが見つける

一つのクエストには、状況、ヒント、4つの選択肢とそれぞれのフィードバック、学習ポイントがあります。4つのマップを合わせると、スペイン語に移す文は数千になります。人が最後まで読んで抜けを探すのは難しい量です。

そこで、チェックを一緒につくりました。

  • 韓国語と英語があるすべての文に、スペイン語もあるかを数えるチェック。画面に表示されるすべてのデータが対象です。
  • スペイン語の画面に韓国語や日本語が混ざって出ていないかを確かめるチェック。4つのマップのスタート画面、プロフィール、プレイ結果レポート、メニュー、地図、復習ボード、ストーリーをすべて描画して確認します。
  • 訳が抜けていたときに、空白の代わりに英語を表示する代替の仕組み。チェックが見逃した一行のせいで画面が空になることはないようにします。

こうして一つずつ突き合わせる中で、長く見落としていた部分も見えてきました。すべての言語で英語のまま固定されていたヘッダーメニューやステップ表示、NPCの職種紹介といったところです。こうした部分も、今は4つの言語で表示されます。

多言語オンボーディングのチェックリスト

  • 翻訳の前に、用語集と訳さない言葉のリストをつくったか
  • 作業中に見つけた言葉を用語集に足し続け、すべての翻訳者に共有しているか
  • マニュアルに引用したボタン名が、実際の画面の訳と同じか
  • 判断の基準と正解を、言語ごとに変えていないか
  • 数字の表記、句読点、制度のように、地域によって違う部分を確認したか
  • 呼びかけ方と口調の基準を決め、すべての文書に適用したか
  • 長くなった文章のせいで、ボタン、カード、シェア画像が崩れていないか
  • 対応言語を述べる文を、すべての言語版で一緒に直したか
  • 訳し漏れや別の言語が混ざった画面を自動で見つけるチェックがあるか

業種別シナリオに共通する設計の基準は業種別の新人研修シナリオ設計で、文書をシナリオに変える手順は社内Wikiをオンボーディング用クエストに変える5ステップで続けて読めます。


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