新人が最初に起こす事故は、悪意から生まれることはほとんどありません。むしろ良いアイデアから生まれます。テスト用ウェーハで膜厚の均一性が良くなる条件を見つけ、歩留まりもかかっているので、今夜からすぐに適用したい。事業主の担当者が電話で図面どおりにと言い、手の空いた班は今すぐ始めたがっている。
変更管理(MOC:Management of Change)は、まさにこうした瞬間のための手順です。製造現場では、人(Man)、設備(Machine)、材料(Material)、方法(Method)の4つが変わる点を4Mの変化点として管理します。First Runの半導体ファブ、建設現場、IT企業のマップには、この4つがすべてクエストとして登場します。この記事では、そうしたクエストから新人が身につけたい変更管理の基本をまとめます。
方法の変更:良いレシピほどMOCで
半導体ファブのプロセスエンジニアのクエストです。同期のエンジニアが、テスト用ウェーハで成膜ステップの時間を少し延ばすと膜厚の均一性が良くなるという結果を得て、生産側は今夜からすぐ適用しようと急かしています。
- データは明確なので、今夜のうちに量産レシピへ反映し、書類は明日まとめる:不十分
- まず装置1台で量産ロットを使って「お試し適用」し、結果が良ければ広げる:リスクあり
- パートリーダーに口頭でOKをもらってレシピを直し、変更履歴にメモを残す:リスクあり
- データと影響評価、スプリットロットの検証計画をまとめてMOCを起票し、承認後に適用する:優秀
2つのリスクありは、変更管理を迂回するいちばんよくある2つの方法です。範囲を絞ることと、上の人の了承を得ることです。フィードバックはどちらにもはっきり線を引いています。範囲を絞っただけで、承認のない変更であることは同じ。上司の了承には、影響の検討、正式な承認、検証計画が抜けています。問題が起きたとき、なぜ変わったのかを誰も説明できません。
このクエストのフィードバックで、新人にぜひ残したい一文があります。変更管理は良いアイデアを止める手順ではなく、良いアイデアを事故なく量産に入れるための手順だ、というものです。
手順書にない「簡易版」も変更
設備エンジニアのクエストでは、CVDチャンバーの予防保全(PM)の期限が今夜来ていますが、生産管理からホットロットがあるので三日延ばしてほしいと頼まれます。ここで注目したい不正解は、今夜はチャンバー洗浄を省いて主要部品だけを見る簡易PMを行い、フルのPMは来週に回す回答です。不十分です。手順書にない簡易PMは、記録上は完了なのに実際のチャンバーは整備されていない、いちばん危険な状態をつくります。
決められた方法を変えることは、大小にかかわらず変更です。優秀は、チャンバーの状態データを確認し、生産管理と協議して、承認を得た延期か影響の少ない時間帯へPMを調整する回答です。延期するとしても、根拠・承認・追加のモニタリングが残っていれば、管理された判断になります。
材料と設備の変更:顧客に知らせるべき変更
半導体ファブの顧客のクエストで、顧客の担当者が尋ねます。工程の1ステップを新しい装置に移し、薬液の供給元も替えると聞いた。エンジニアリングは仕様が同じだから何も変わらないと言っているそうだが、こちらはいつ知ることになるのか、と。
- 仕様はまったく同じなので、顧客から見れば何も変わらず、通知も不要だと答える:不十分
- いくつかのロットにだけ先に適用し、顧客が違いに気づくか様子を見る:不十分
- まず量産に適用して検証し、何も変わらなければそのとき通知する:リスクあり
- 顧客と合意した変更通知の基準を確認し、該当すれば検証データと日程を添えたPCNを事前に送る:優秀
仕様が同じでも、装置や材料が変われば、顧客の製品に小さな違いが現れることがあります。だから多くの顧客が事前の通知を求めます。事後の通知は、顧客が評価し選ぶ機会を奪います。いくつかのロットにだけこっそり適用するのは、顧客を知らないうちに試験の対象にすることです。PCN(変更通知)は、同意を求める手順であり、顧客が自分の製品を守る時間を渡す手順でもあります。
現場の設計変更:電話の指示は承認ではない
建設現場の工務担当のクエストです。3階のコミュニティ施設で、意匠図と構造図の壁の開口部の位置が食い違っています。事業主の担当者は電話で意匠図どおりにと言い、手の空いた型枠班は今日すぐ始めたがっています。
- 電話の指示があったので意匠図どおりすぐ始め、書類は竣工前に整理する:不十分
- 契約図面は確定しているので、いかなる変更も受けられないと通知する:不十分
- 影響がなさそうな壁から先に始め、写真を撮っておいて後で整理する:リスクあり
- 設計質疑書で食い違いを正式に確認し、構造検討と費用・工期への影響をまとめ、監理・事業主の承認後に作業指示を出す。その間、型枠班は別の区画に回す:優秀
構造検討なしに開口部を動かせば補強が抜けるおそれがあり、口頭の指示だけでは費用や工期の変更を請求する根拠もありません。優秀の最後の一文も大切です。承認を待つ間、手の空いた班を別の区画に回して工程の損失を減らしています。変更管理を守ることと、現場を止めることは同じではありません。
同じマップの監理指摘のクエストでは、鉄筋が以前の改訂版の図面どおりに配筋されていたことがわかります。現場の配筋に合わせて施工図を急いで描き直し、今日の日付で提出する回答は不十分です。図面を現場に合わせるのは、設計の検討を飛ばすことです。
人の変更:資格が切れたら
4Mの最後は人です。半導体ファブの顧客監査のクエストでは、重要工程の作業者二人の教育認定が切れていたことが指摘されます。優秀は、指摘を認めてすぐ封じ込める、つまり当該作業者を再認定まで作業から外し、ほかに同じ抜けがないか点検したうえで、原因と対策を日程付きで回答する回答です。締めの会議までにチームに抜けた記録を埋めさせる回答は不十分です。後から記録をつくって入れるのは、記録の改ざんです。
IT企業の変更要求も同じ
IT企業のマップのPMOのクエストにも、同じ原理が出てきます。顧客が締め切り直前に大きな機能の追加を求めてきたら、変更要求として影響分析を行い、合意のうえで反映するのが正解です。無条件に受け入れて今のスケジュールに詰め込む回答はリスクあり、きっぱり断る回答は不十分です。承認された変更を反映する前には、スケジュールとスコープのベースラインを更新してチームに共有する必要があり、口頭でだけ伝える回答や、すぐに開発だけ始める回答はリスクありです。
変更管理の基本の順番
4つのマップの優秀を集めると、業種を問わない順番が見えてきます。
- 変更を変更として認識する:簡易版も、お試しも、仮措置も変更である。
- 根拠をまとめる:データと、変えたい理由。
- 影響を評価する:他の製品、後工程、費用、日程、顧客。
- 検証計画を立てる:スプリットロット、再試験、構造検討。
- 承認を得る:口頭の了承ではなく、決められた承認者から。
- 知らせる:顧客への通知基準を確かめ、現場とチームにはベースラインを更新して共有する。
- 待つ間にできることを探す:人員の配置替え、並行して進められる作業。
変更管理の新人研修チェックリスト
- 善意の変更をその日のうちに適用する回答が、不正解として説明されているか
- 範囲を絞ることや口頭の了承が承認の代わりにならない点を扱っているか
- 手順書にない簡易版の作業も変更だという点を扱っているか
- 仕様が同じでも顧客への通知が必要な場合がある点を扱っているか
- 口頭の指示と正式な承認を区別するクエストがあるか
- 後から図面や記録を合わせる回答が、不十分として評価されているか
- 承認を待つ間も現場を止めない方法が、正解に含まれているか
業種をまたいで使えるシナリオ設計の基準は業種別の新人研修シナリオ設計で、変更のあとに問題が起きたときの分析はなぜなぜ分析の新人研修で続けて読めます。
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