病院の看護師の新人研修は、長めのオリエンテーションとプリセプター制度で進むのが一般的です。バイタルサインの測定、与薬、記録、感染対策、転倒予防など学ぶことは多く、多くはチェックリストで確認します。しかし新人看護師が一番不安を感じる場面は、チェックリストの外からやってきます。夜勤中に患者さんの血圧が下がったのに当直医がすぐに来ない、口頭で受けた指示が少しあいまいだ、ご家族が同じ質問を三回目もされる、といった場面です。
First Runは、もともとIT企業を舞台にしたオンボーディングRPGでした。その後、半導体工場、建設現場、生協に続けて病院のマップを加えました。新しいゲームで病院マップを選ぶと、病棟、ICU、救急外来、手術室、チャージナースといった持ち場で働く新人になります。
この記事は、病院の新人看護師がどの判断で詰まるのか、その判断をオンボーディングシナリオとしてどう練習させるかを扱います。看護の教育担当者、看護管理者、そして新人を日々支えるプリセプターに向けた記事です。
病院マップの構成
病院マップは他のマップと同じエンジンで動きますが、場所と持ち場が病院に合わせて作られています。
- 病棟:同じ勤務帯の中で多くの患者さんを担当します。バイタルサイン、与薬、記録が重なるため、優先順位と報告のタイミングがぶつかりやすい場所です。
- ICU:機器や輸液ポンプが多く、アラームが途切れません。大切なのはアラームより先に患者さんの今の状態を見る習慣です。
- 救急外来:短い時間で患者さんを振り分け、優先順位を決めます。
- 手術室:無菌操作と、ガーゼや器械の数の確認が中心です。
- チャージナース:病棟全体の人員配置と申し送りを担当し、新人が一人で判断しにくい場面を引き継ぎます。
場面は持ち場ごとに違いますが、判断の骨組みは同じです。状況を読み、直接確認し、報告し、記録します。
病院の新人が最初につまずく五つの判断
1. バイタルサインの変化:いつ報告するか
病棟で新人がよくやってしまうのが「もう少し様子を見よう」です。測定値が基準から外れているのに、患者さんが元気そうだからと次の巡回まで待ってしまいます。逆に、患者さんの状態がはっきり悪くなっているのに、自分で対応できると考えて報告が遅れる場合もあります。
正解は二段階です。まず自分で患者さんを見て、測定値を確認し直します。そのうえで、病院が定めた報告基準に従って、担当医や先輩にすぐ伝えます。報告はSBARの順で行うと短く正確になります。状況(Situation)、背景(Background)、評価(Assessment)、提案(Recommendation)の順に話します。
- Excellent:自分で確認し、SBARで直ちに報告したうえで、指示された再測定と観察の計画を記録する。
- Good:報告はしたが要点が曖昧で、相手が患者さんの状態を聞き直す。
- Risky:記録だけ残して、次の巡回で報告するつもりにする。
- Poor:測定値が基準を超えているのに、正常範囲だと判断して流す。
2. 口頭指示と処方の確認
ICUの夜勤では、忙しい中で口頭指示がよく出ます。あいまいな指示をそのまま実行すると、重大な事故につながることがあります。新人の正解は、指示を受けたらすぐに復唱(read-back)して確認し、処方記録と合っているかを見てから実行することです。合っていない、またはあいまいな場合は実行を止め、指示を出した人に確認します。
「とりあえず実行して、後で確認しよう」は、どれほど忙しくても正解にはなりません。どんな圧力があっても越えない一線として扱います。
3. 救急外来の優先順位
救急外来では、複数の患者さんが同時に待っています。来た順、一番大きな声の家族、一番近いベッドの順で対応すると、命に関わる患者さんを見落とします。新人はまず振り分け(トリアージ)の結果を確認し、気道、呼吸、循環を脅かすサインがないかを見ます。
正解は、優先順位をはっきりさせつつ、ほかの患者さんを放置しないことです。命に関わるサインのある患者さんを先に評価し、残りの患者さんには再評価の時刻を決めて、チームで共有します。
- Excellent:振り分けの結果と命に関わるサインを先に確認し、残りの患者さんの再評価時刻を決めてチームに共有する。
- Good:優先順位は正しいが共有がなく、ほかの看護師が状況を把握できない。
- Risky:到着した順番に対応する。
- Poor:一人の患者さんのそばから動かず、待合室の患者さんの状態を確認しない。
4. 手術室での数の確認
手術の終盤になると、ガーゼや器械の数が合わないことがあります。執刀医が早く閉じようと急かすと、新人は「たぶん全部ある」と流したくなります。手術室での正解は、数の不一致をすぐに知らせ、確認の手順を手術チームと一緒に終えてから閉じることです。時間の圧力があっても、数の確認は省きません。
手術室は無菌操作が基本です。無菌性が疑われる物品は使わず、確認を受け直します。
- Excellent:不一致をすぐに知らせ、手術チームと数を数え直し、結果を記録する。
- Good:数の確認はしたが、記録が抜けている。
- Risky:執刀医のペースに合わせて確認を省く。
- Poor:数が合わないことを伝えずに流す。
5. ご家族の要望と病院の規則のあいだで
面会時間を過ぎても病室に残りたいというご家族や、ほかの患者さんの状態を尋ねてくるご家族がいます。新人は共感したい気持ちから、例外を作りがちです。しかし患者さんの情報は、本人と正当な代理人にだけ伝えられるべきであり、面会の規則は病院が定めた基準に従います。
正解は、共感を示しながら規則を説明し、判断が難しい部分はチャージナースに引き継ぐことです。
- Excellent:共感を示しながら規則を説明し、例外が必要ならチャージナースにつなぐ。
- Good:規則は説明したが、チャージナースにつながないまま終わる。
- Risky:今回だけ例外を認める。
- Poor:ほかの患者さんの情報を伝える。
一人で解決しようとすると起きること
よくあるパターンがあります。尋ねると能力が足りないと思われそうだという考えから、新人が一人で判断を抱え込むと、問題は小さくならず、後になって表面化します。記録が抜け、報告が遅れ、次の勤務者が状況を知らないまま動くことになります。
病院のオンボーディングで最も繰り返し伝えるべき言葉は、「確認し、報告し、記録する」です。この三つがセットで動いて初めて、申し送りが安全に引き継がれます。
病院のオンボーディングシナリオを作るときの注意点
- 基準は病院のプロトコルに従います。シナリオは判断を練習する道具であり、臨床の基準を代わりに決めるものではありません。
- アラームを消す、確認を飛ばすことを正解にしません。基準は速さではなく安全です。
- 「一人で解決した」ことを褒めません。適切なタイミングで確認し、報告したことを褒めます。
- ご家族や同僚からの圧力は現実的に入れますが、その圧力で基準が変わらないように書きます。
- 持ち場ごとに正解の根拠が違うため、同じ原則を持ち場の言葉に置き換えて書きます。
病院の新人研修チェックリスト
- 自分の持ち場のプロトコルと報告基準がどこにあるか、最初の一週間で探します。
- SBARの報告を声に出して練習します。
- 口頭指示は復唱することを基本の習慣にします。
- 救急の場面では、振り分けの結果と命に関わるサインを先に確認します。
- 器械やガーゼの数が合わないときは、すぐに知らせて記録します。
- 与薬と感染対策の基準は、それぞれ別に復習します。
与薬の安全は与薬安全の新人研修で、手指衛生と個人防護具は感染対策の新人研修で詳しく扱っています。業種別マップ全体の設計の基準は業種別の新人研修シナリオ設計で確認できます。
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