ゲーム型のオンボーディングを導入した組織で、よく聞く声があります。最初の10分は面白かったけれど、その後は宿題のように感じた、というものです。コンテンツの質が原因であるケースは、思ったほど多くありません。クエストは実務に近く、フィードバックも丁寧なのに、クエストとクエストの間の体験が空白になっていることがよくあります。
First Runを改修しながら、この空白を5つの瞬間に分けて考えました。この記事では、その5つの瞬間とそれぞれを設計で解決した方法、そしてあえてゲームにしなかったものをまとめます。新入社員研修を設計する人事・L&D・PMの担当者に向けて、ゲーム用語よりも判断基準を中心に書いています。
1. 行き先が分からないとき
自由に探索させる設計は、娯楽のゲームなら長所ですが、オンボーディングではたいてい失敗します。新入社員は余暇にゲームをしているのではなく、業務時間のうち20〜30分を割いてプレイしています。その半分を次の目的地探しに使えば、残る印象は「迷った」だけです。探索の楽しさは、時間に余裕のある人のものです。
First Runは、道探しを3つの層で解決しました。
- 道案内の矢印:次の目的地が画面外にあると、マップの端に矢印が表示され、NPCの名前と残りの距離をマス数で示します。対象が画面に入ると、頭上で跳ねるマーカーに切り替わります。目的地はGuide Dan、自分の職種のメンター、受けられるクエストを持つ最寄りのメンターの順に決まります。
- キャンパスマップ:プレイエリア右上のボタンを押すと、48×32のキャンパス全体が一画面に表示されます。現在地、受けられるクエストがあるNPC、建物、ロックされたエリアをまとめて確認できます。
- マップ上の表示:NPCの頭上にある ! と ✓ の表示と名札のおかげで、近づかなくても誰のところにやることが残っているかが分かります。
もう1つ気を配ったのは、オフにできる選択肢です。矢印はMENUからオフにできます。道を覚えた人にとって、ずっとついてくる案内はノイズになります。最初はオンにしておき、いつオフにするかはプレイヤーに任せるほうがよいでしょう。
2. 流れを感じられないとき
クエストを解くたびに同じ報酬が入ると、3回目あたりから単純作業のように感じられます。うまく進んでいるという感覚が積み上がらないからです。
First Runには、連続正解のコンボを入れました。Good以上を連続で取ると、2連続からEXP(経験値)+10%、1回つなぐごとに10ポイントずつ上がり、6連続の+50%で頭打ちになります。RiskyやPoorを取ると途切れ、現在のコンボはHUDの炎のチップに表示されます。
ボーナスに上限を設けた理由
ボーナスが際限なく増えると、コンボそのものが目的になります。プレイヤーはコンボを守るために難しそうなクエストを避け、慣れたタイプばかりを選ぶようになります。不慣れな状況で判断してみる、というオンボーディングの意図とは正反対です。+50%で止めれば、コンボは気持ちのよい加速程度にとどまり、どのクエストを選ぶかまでは変えません。
復習はコンボに影響させない
復習ボードで解き直す問題は、コンボを伸ばしも途切れさせもしません。復習でコンボが途切れるなら、プレイヤーはコンボが続いている間、復習を後回しにします。逆に復習でコンボが伸びるなら、答えを知っている問題でコンボを水増しできます。どちらにしても、学び直しに戻る行動がゆがみます。中立にしておけば、復習はいつやっても損のない行動になります。
3. 成長が最後まで見えないとき
オンボーディングゲームによくあるのは、すべてのクエストを終えると修了画面が出る構成です。問題は、その間に何も起きないことです。進捗バーが少しずつ伸びるだけでは、成長した実感はなかなか生まれません。
First Runは、成長を途中の瞬間に分けました。1つ目はレベルアップです。レベルが上がる回答を送信すると、フィードバック画面にLEVEL UPのバナーと新しい役職が表示されます。インターンが社員になる瞬間が、いま下した判断のフィードバックと同じ画面にあるので、成長と判断が切り離されません。
2つ目は12個の実績です。実績を選ぶ基準は1つでした。プレイ量ではなく、実際の入社1か月目に期待する行動に報いることです。
- 異なる同僚8人と会話する(あいさつ上手な新人)
- 建物4か所に入ってみる(キャンパス探検家)
- 間違えたクエストを復習で1つ、5つリカバーする(もう一度立ち上がる、復習の達人)
- 他の職種のクエストを3つうまく解決する(境界を越える人)
- ライバルのKevinと、異なるチャプター3つで会話する(ライバルの本音)
クエストをいくつ解いたかだけを数える実績は入れていません。そうした実績は素早く押す行動に報いることになり、素早く押す行動は判断の練習とは逆方向だからです。同僚に話しかけ、場所を見て回り、間違えたものを見直す行動は、実際の入社1か月目に期待する行動と同じです。
4. 失敗が罰に感じられるとき
間違えたときに何も得られないと、人は間違えないようにプレイします。自信がなければ手を止めるか、答えを検索するか、画面を閉じてしまいます。オンボーディングでは間違えてみる経験が学習の半分を占めるのに、設計がそれを妨げていることになります。
First Runには、3つの仕組みがあります。
- EXPの下限:Poorでも最低25%、Riskyでも最低45%のEXPが入ります。間違えても進行は止まりません。
- やわらかいコーチング:同じクエストを2回以上間違えると、フィードバックの口調が変わります。もともと迷いやすい問題であることを先に伝え、再挑戦する場所を案内します。
- 復習によるリカバー:間違えたクエストは復習ボードに残り、解き直して正解するとRecovered(リカバー済み)として記録され、メンターの信頼度が一部戻ります。
下限が高すぎると、適当に選んでも進めるゲームになってしまいます。そのため不正解では評判とメンターの信頼度が下がり、クエストは未完了のまま残ります。進行は保証しつつ、結果は記録するというバランスです。
5. 誰も読まないチュートリアル
最初の画面に操作方法を8行表示すると、たいていの人はまず閉じるボタンを探します。その時点では、まだ何が知りたいのか分からないからです。説明は、必要になった瞬間に出てこそ読まれます。
First Runのコーチヒントは3回出ます。初めてマップを歩き回るとき、初めてクエストを受けるとき、初めて間違えたときです。それぞれ1回ずつ、短く表示されます。間違えた問題をどこで解き直せるかは、初めて間違えた瞬間に伝えてこそ記憶に残ります。それより前に伝えても、まだ必要のない情報にすぎません。
見逃したヒントはMENUから見直せます。全体の説明が必要な人のために、初心者マニュアルのページも別に用意しました。ゲーム内の説明は短く、参照用の説明はゲームの外に置く構成です。
ゲームにしないほうがよいもの
楽しさを足そうとして、かえってオンボーディングを台無しにしてしまうこともあります。First Runに入れなかったものと、その理由です。
- 新入社員同士のリーダーボード:同期入社の間で順位をつけると、学習が競争になります。遅れた人は質問を減らし、先を行く人はスピードを上げます。どちらもオンボーディングで期待する行動ではありません。比較が必要なら、先週の自分と比べるほうがよいでしょう。
- 判断問題のタイマー:制限時間が測るのは反応速度です。変更要求や障害報告のような実務判断で大事なのは、素早く選ぶことではなく、制約を最後まで読むことです。タイマーをつけると、状況説明を読み飛ばす癖を練習させることになります。
- 資料閲覧バッジ:規程の資料を開いた記録にバッジを与えると、開いてすぐ閉じる行動が増えます。読んだかどうかは閲覧記録では分からず、判断できるかどうかはクエストで確認するほうが正確です。
3つとも、同じ基準でふるいにかけています。報酬を受ける行動が、実際の業務で期待する行動と同じかどうかです。
ゲーム設計チェックリスト
- 初めての人が、次の目的地を画面ですぐ見つけられるか
- 道案内をプレイヤーがオフにできるか
- 連続報酬に上限があるか
- 復習が連続報酬を途切れさせたり、水増ししたりしないか
- 成長が判断直後の画面で見えるか
- 実績がプレイ量ではなく、期待する行動に紐づいているか
- 不正解でも進行が止まらず、結果は記録されるか
- 説明が必要な瞬間に1回ずつだけ出るか
- 新入社員同士で順位をつけていないか
楽しさは目的ではなく手段
オンボーディングゲームにおいて、楽しさは目的ではありません。判断の練習という本来の目的にたどり着くまでの摩擦を減らす手段です。この記事で取り上げた5つの瞬間はすべてクエストの外側の問題で、クエストを増やさなくても直すことができました。オンボーディングゲームが退屈だというフィードバックを受けたら、クエストを増やす前に、クエストとクエストの間の体験から見直してみてください。
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